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この単純な質問に対する、明確な回答を提示する事は、実はたいへん難しい事です。なぜなら水石はただ単に形のいい石を、ある一定の様式に則って眺める行為にとどまらない、非常に深遠な日本の伝統行為だからです。水石の石としての基本的定義については、サイト内の「水石五大要素」に説明をしていますので、ここでは基本概念に関連する解説を試みたいと思います。
日本においての水石の歴史は、大方において、南北朝時代頃より始まったと考えられています。
はじめの頃は、中国から渡来してきた文化のひとつであったわけですが、他の日本文化と同様に、ここ日本に伝わった渡来文化であった水石もまた、日本独特に解釈され、その頃同時代的に行われていた、茶事、そして東山文化の開花などに伴って、日本独自の文化としての側面を持つに至りました。この日本独自という点についての実証として、現在までに続く日本の水石と、中国の鑑賞石とが明確に異なる価値判断により選別されている事があげられます。日本における水石は、その形を重んずるのはもちろん、色合いにおいてはいわゆる「真黒」を以ってよしとする傾向を有しているのに対し、中国の鑑賞石は派手な色彩石のような石を好んで据える事も多く、また日本の水石は、卓上にかならずただ一つの石を置きますが、中国においては必ずしもひとつの石ではない点などが、あげられると思われます。
したがって、日本独自の伝統文化である水石の歴史は「能」や「茶事」などとほぼ同じ程度の歴史を持ち、その深部において、これらの伝統文化概念と同一の指向をもつものと考えられます。そして水石は、後醍醐天皇をはじめとする歴代の天皇にも愛され、この点からも「みやび」なる文化であり、その独自性は、日本が世界に誇れる伝統文化と言えます。
水石の概念を理解するうえで、非常に参考になる書籍のひとつとして、川端康成氏の「美しい日本の私」という本が挙げられます。この名文には、ことさらに日本美を好み、また体現していた川端氏の考え方が非常に端的に分かりやすく記述されており、この一冊を理解できればおのずから水石という概念も理解が進むと思われます.
ここでその中の一部を引用させていただきたいと思います。
"日本の庭園もまた大きい自然を象徴するものです。(中略)日本の造園ほど複雑、多趣、綿密、したがってむずかしい造園法はありません。「枯山水」といふ、岩や石を組み合わせるだけの法は、その「石組み」によって、そこにはない山や川、また大海の波の打ち寄せる様までを現はします。その凝縮を極めると、日本の盆栽となり、盆石となります。「山水」といふ言葉には、山や水、つまり自然の景色、山水画、つまり風景画、庭園などの意味から、「ものさびたさま」とか、「さびしく、みすぼらしいこと」とかの意味まであります。しかし「和敬静寂」の茶道が尊ぶ「わび・さび」は、勿論むしろ心の豊かさを蔵してのことですし、極めて狭小、簡素の茶室は、かへって無辺の広さと無限の優麗とを宿しております。
以上かなり長い引用となりましたが、ここで川端氏が述べている事こそ、水石の基本概念に通じている事なのではないでしょうか。
京都の紅葉風景
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